劇場アニメ化を支援するクラウドファンディングが目標額2000万円の資金調達に8日間という最短記録で到達した『この世界の片隅に』。原作はこうの文代さん。コアなファンを持つ人気コミックだ。
クラウドファウンディングで目標金額到達の最短記録を達成し、国内映画ジャンルでの史上最高額を更新し続けているそうだ。戦争中の庶民の暮らしを描いたコミックがこれだけ人々の関心を集めるのは、最近では珍しいと思う。
→片渕須直監督による『この世界の片隅に』のアニメ映画化を応援プロジェクト
『この世界の片隅に』の主人公は、広島の漁師町に育ったおっとりタイプの少女、すず。おっとりし過ぎてて時々失敗もするが、絵を描くことが好きで、ごくごく普通に暮らしている。そんなすずが急遽、呉の北条家に嫁ぐことになった。相手は海軍の仕事をしている周作。
周作を始め北条家の人々はすずに優しく迎え入れ、近所の住人や出戻りの義姉・徑子とその娘ですずに懐く晴美らに囲まれて、すずは平凡ながらも幸せな日々を過ごす。
そんなある日、ふとしたきっかけですずは、遊郭「二葉館」の遊女リンと出会い、仲良くなる。お互いに友情のようなものを感じ合う二人だが、実はリンは、周作と縁のある女性だった・・・。
ストーリーの前半は学校に通うすずの生活ぶりを中心に、中盤は暮れに嫁いだすずの暮らしぶりを中心に、それぞれ描かれている。そして後半には広島の原爆投下や、すず達の身に起きる不幸な出来事が淡々と描かれる。戦争の哀しさをリアルに描いており、決して全てがハッピーエンドで終わるような物語ではない。が、それでも深刻になり過ぎず、ある意味『サザエさん』的なのどかさを保ちつつ進行していけるのは、すずが持つ癒しのオーラみたいなものが全編に渡って広がっていて、読み手をホッとさせてくれるからなのだろう。
こうの文代さんの作品というのは、『この世界の片隅に』にしても『夕凪の街 桜の国』にしても、『ぴっぴら帳』や『さんさん録』にしても、どれも大変素晴らしい。大々的に注目を浴びるタイプの作品群ではないが、どこか懐かしさを感じさせる独特のタッチと、素朴だが魅力的な登場人物たちは、読み手の心をやんわりと包み込む温かさを持つ。私もその魅力にハマった一人だ。
今回の『この世界の片隅に』は2009年に第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞している。2011年には北川景子主演でテレビドラマ化もされている。アニメ化は遅すぎたくらいだ。このアニメ、ぜひとも成功してほしい。
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またそれより前に著した『夕凪の街 桜の国』は第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞している。
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『夕凪の街 桜の国』は2007年に田中麗奈主演で映画化もされた。なかなかの良作に仕上がっている。
どちらの作品も第二次世界大戦を背景に、特に広島の原爆に重きを置いて描かれた作品。1945年8月15日の戦争終結から70年の節目を迎える今年、このような題材を扱った作品が注目を浴びるのは意義のあることだと思う。
アニメ製作にはお金がかかる。資金をクラウドファウンディングで募ることはこれからの資金集めの方法としては当たり前の手段になっていくだろう。現に最近も『リトルウィッチアカデミア』の続編製作のためのKickstarterで7400万円集まったと話題になった。
みんなが観たいと思うものには資金が集まる。これってアニメの質を向上させる上で最も望ましい姿なのではないだろうか。最近のテレビのアニメは狙い過ぎのものが多すぎて、いささか食傷気味だから。